瞬に酷い態度だと分かっていても。
巨大な葛藤が心を支配するようで、足がおのずとすくんでしまうのだった。
声なんて、かけられなかった。
顔を合わせるのが必死で。
優月の膝の上が瞬の特等席と言っていいぐらい、毎日必ず1回以上は優月の膝に座っていた瞬。
彼もそんな彼女の雰囲気を理解したのか、膝に座りに行くことはなかったし、むしろ遠慮さえしているようだった。
家を出る前、玄関まで見送りにきた陸が彼女を呼び止めた。
連日大人げない態度を続けることを、さすがに注意しに来たと思った優月は、バッグを握る手に力が入った。
ところが……、
「ゆづ。……大丈夫か?」
「っ……、何?別に何もないよ、行ってきます」
掛けられたのは心配する言葉だった。
思いもしないそんな言葉に、どきりとした優月は急いで家を出た。