再び調理場に戻った陸が、料理を盛り付けていると、休憩していた洋平が陸を呼びにきた。
「ぞの、家から電話だ」
「はい、わかりました」
「…ばあさん、すげぇ焦ってるみたいだった」
区切りがいいとこで終わらせ、陸が事務室へ向かう間際、洋平はそう付け足し、びくっと陸は体が硬直した。
「…そう、ですか」
ここの店で陸の家庭事情を知っているのは、店主と洋平だけだった。
電話を終えた陸は、心配して出迎えた洋平に大まかに説明すると、早退を頼み込み家路を急いだ。
夕刻迫る国道沿いを自転車で疾走する。
冷え切った風が直接顔と手に吹き付けるも、今は寒さなど問題ではなく、むしろ少し汗ばむほどで、夢中で家へと向かった。
いつも欠かさずつけていた優月の編んだネックウォーマーも、手袋もしないままで。
電話の内容……、それはおばあさんの『ごめんね、陸』から始まった。