「先、戻ってるな。じゃ」


その場を去ろうと歩き出した時、彼女は声をかけた。



「相園君、本当にありがとう」


「感謝されるようなことしてねぇから。あともう少し、お互い頑張ろうな」


「うんっ!!」



その笑顔は今まで見てきた、彼女の柔らかい可憐な笑みの中で、一際明るく無邪気で眩しかった。


まるで最初で最後のような…。




そして気づいた。


思い出した。




彼女と初めて中庭のベンチで会った時に、視界を掠めたいつかの面影……。


湿った夏の風の中に感じた、胸のざらつき……。





夏が残したその存在は、もうこの世界には居ない、会うことは永遠に叶わない、





彼のかつての恋人。








偶然だろうか。


最後のあの夏の日々が、今の彼にずっと語りかけていたのだ。




揺らぎ始めた彼の心を支えるように………。