ハンカチを握る手が微かに震えていた。
「……小柳」
彼女の“あの頃”を自分は知らない。
それでもとても壮絶だったことは想像つく。
ひょっとしたら、想像以上かもしれない。
だから過去のことを聞き出すことはなかった。
辛い話をさせてしまったはずなのに、彼女の声色はなぜか明るかった。
「この話する時があったら、もう辞めようって思ってたんだ。我慢してみんなと付き合うの。でもまさか、相園君がきっかけをくれるなんてね、思ってもみなかったな。だって、絶対話さないって封印してたから。……ふう。これでだいぶ吹っ切れた」
そう言うと彼女はまた箸を持ち、パクッと口におかずを運んだ。
「小柳、本当に大丈夫か?無理してるんじゃないか?」
「もういいんだって。どうせもうすぐ卒業なんだし、本当の自分出して、それで卒業する。相園君があまりしつこいから、観念します!」