初めて見る寝顔ではないけれど、今日はいつもと違う。
鼓動と共に、胸の内からじわじわと込み上げては水が溢れていくような。
波紋が永遠に揺れては広がり、今にも零れそうな……。
家の中で二人きりの部屋、側で眠る恋する人。
そんな有りそうで無かった状況が、彼女の熱い気持ちに拍車をかける。
“熱い水が、零れ落ちてしまう前に……。”
彼が眠るベッド脇に立ち膝になり、覆いかぶさるように彼を見下ろす。
ほんの一瞬のキスをした。
いたずらのように、夢のように、風が過ぎ去ったように、微かに触れ合った。
彼女の初めてのキスは、自分だけが想いを寄せる、今までの片思いの果てのような、切ない秘密の泉で溢れ返っていた。