ベンチに一人残った陸は、すっかり寒くなった風の中、初めてここで小柳と会った日の風を思い出していた。



胸をざらつかせる、夏の名残り風。





今は季節が変わり、もうその風が吹くことはないが、しっかりその感覚は陸に染み付いていた。









余計なおせっかいだと自覚しながらも、何度拒まれても、小柳の力になりたい気持ちは消えることはなかった。



その気持ちは彼自信も不思議に思っていた。


もしかしたら、あの夏の風の影響なのかもしれないと、何となく想像しながら。



けれど、あの時陸の視界を掠めた、儚い面影のことは思い出すことはなかった。







―――。.*゜――。.*゜―――



被服室にカタカタとミシンの音が響く。


部員数僅か7人という、少人数で活動する手芸部。



時折談笑し和やかな空気の中、それぞれのペースで製作する。