ベンチに一人残った陸は、すっかり寒くなった風の中、初めてここで小柳と会った日の風を思い出していた。
胸をざらつかせる、夏の名残り風。
今は季節が変わり、もうその風が吹くことはないが、しっかりその感覚は陸に染み付いていた。
余計なおせっかいだと自覚しながらも、何度拒まれても、小柳の力になりたい気持ちは消えることはなかった。
その気持ちは彼自信も不思議に思っていた。
もしかしたら、あの夏の風の影響なのかもしれないと、何となく想像しながら。
けれど、あの時陸の視界を掠めた、儚い面影のことは思い出すことはなかった。
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被服室にカタカタとミシンの音が響く。
部員数僅か7人という、少人数で活動する手芸部。
時折談笑し和やかな空気の中、それぞれのペースで製作する。