彼の中には何も見えてこないはずなのに、その決して越えられない“何か”は確かに感じていた。



そしてそのことに気づきながらも、特別な時間だけはどうしても失くしたくはないと、強く思っていたのだった。





せっかく親身になってくれている彼に、本当の自分を曝け出しても、心の全部を預けることはしない、ずるいやり方だと自覚しながらも…。


彼も自分には全部を見せていないのだから、むしろ平等で丁度いいと。






それが、彼女の周囲を和ます可憐な笑顔の裏で作用する、心の氷の盾を作る理由の一つでもあった。








暗黙の了解で、中庭から二人が一緒に教室に戻ることはなく、いつもどちらかが先に教室に入り、その後少し遅れて入る。


この日は、予鈴まであと10分も余っているのに、先に中庭を出て行ったのは小柳だった。