それは『相園君だけでいい』と、心の中で彼女はそっと付け足した。


陸の耳には決して届かないその声も、頑なに閉ざした心の氷も、またしても彼女の愛くるしい健気な笑顔の盾によって塞がれたのだった。



あともう少しで彼女の心の氷に触れそうな期待がしていた陸は、決して揺るがない彼女の意思に、問い詰める言葉は消えうせ、代わりに寂しさがこみ上げていた。








小柳は中庭のベンチで陸と会話する時間が、何よりも特別な時間だった。


例え、彼に自分では到底越えることのできない、大切な存在がいたとしても。





陸がいつもどこか遠く、色を失くしたような眼差しをしていることを彼女は知っていた。

成績優秀で周囲に信頼されてて、それでいて誰よりも大人びていて。


どこか影のある彼が、何だか自分と重なるようで、それに気づいた時、彼女はどんどん距離を縮めたくなっていた。