好きな人に悲しい顔をさせるくらいなら、気づいてしまった彼女の心の在り処など、もうないものだと長澤は思うことにした。
自分が振られることなど、大した傷ではない。
それ以上に、彼女の隠された心の在り処には、一つではない、何か沢山の思いや痛みが詰め込まれているんじゃないか、そんな風に思えて仕方なかった。
近づけないその場所。
『長澤』
そう呼び慣れた彼女の声。
小さな笑み。
見えない何かにモヤモヤ苛ついていた分、心の在り処の存在に気づいたことで、そんな些細な一瞬で、目の前に大きな虹が見えたように、幸福な気分になった。
だから、その場所は知っているようで知らない場所。
それでいい。
それが長澤の秘密の覚悟だった。
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冷たい風が枯葉を巻き上がらせる。
中庭のベンチでは、寒空の下でも明るい声が弾んだ。