照れくさそうに、陸が手持ち無沙汰で髪をぐしゃぐしゃといじったのは、自分の髪ではなく彼女の髪だった。
「もー、またぁ」
ぶつくさと文句を言う優月だけれど、髪を直すその顔は緩んでいた。
駅構内のベンチに腰掛け、次の電車を待つ二人。
周りの雑音の中、沈黙が流れた。
それでも黙ったままの二人には、柔らかい空気がそっと歌うように包んでいた。
再び電車に乗った後、陸が『具合はどう?』と聞いただけで、ほとんど会話はなくなっていた。
それは、単に彼女が眠ってしまったからと、本当の意味では、言葉は余計な飾りにしか感じない程、幼くして築いた絆が、また新たに築き始めようとしていたからだ。
何度も振り払ってしまったその手を、お互い取り合うように。