優月の頭の後ろに手を添え、彼女にしか聞こえないくらいの落とした声で陸は話した。
引き寄せられた優月の視界には、彼の羽織るカーディガンの紺色しか見えない程に、二人は密着していた。
降りた駅では人は少なかったが、二人を気にする目はいくらかあった。
それでも今の優月と陸は、周りなど全然頭になかった。
「…とっくにゆづのこと、妹だとは思ってなかったよ」
ハッとした優月は顔を上げ、恥ずかしそうに微笑む陸と目が合った。
「ふっ。ただの妹だと思ってたら、嫉妬なんかしないだろ?」
直接目を合わせながら聞くその言葉は、彼女の隠し続けた心の奥に、柔らかく優しい春風が舞い込むようだった。
硝子の破片で傷ついた痕さえも、そっと撫で労わるように。
「ぅえっほん!」
通りかかった中年の男性が、二人を横目にオーバー気味に咳払いをした。
途端に我に返った二人は、お互いパッと体を離す。