中庭のベンチにはクセだから来る、彼女の話を聞きたいから来る、どっちも本当だったが、今の気持ちとしては、どちらかと言えば後者の方が強かった。
彼女のこと知っていけば、心の氷の原因にだって辿りつけるかもしれない。
単純に力になりたいと陸は思っていた。
けれど…、実際は彼の親切心、その気持ちだけで作用できるものでもなく。
「…わかってるけど、勘違いしたくなるよ」
「ん?何か言ったか?」
「ううん、別に。もう教室戻ろっか」
彼女の零れた切ない声は、誰にも聞かれずに風とともに消え去った。
陸はまだ気づいていなかった。
ここに来る彼女の本当の理由と、彼女に対してなぜそこまで思い入れるのかを…。
忘れていたはずがない。
ただ気づいていなかっただけ。
自分の気持ちも、過去も、全部。