そんな状態で包丁を握っていたりしたらどうなるか…、想像つくのは容易いだろう。
一番避けるべき作業を、彼女は担当してしまったのだ。
キャベツの千切り。
もはや自動で動く手元。
神経はどこかへ行っていた。
トントントントンッ……トッ
「いっっっ」
声にならない痛みが指先に一点に集中。
「佐野さん!!血が…、大変!先生ー!」
話すことをずっと避けていた同じ班の子も、思わずそんなことすら忘れ、とっさに彼女に駆け寄っていた。
結構深く切ってしまった、野菜を添えていた左の人差し指。
見る間に血が滴り落ちる。
「すぐに保健室へ行きなさい!」
教師が叫んだ後に続けて里乃の声が飛んでくる。
「ゆづ!一緒にい」
すると、クラス内が騒然とする中、一番の賑やかしの彼が、無言のまま誰より先に優月にハンカチを手渡し、そのまますぐ教室から連れ出した。
もうあっという間に。