『裏表ない人なんて、そういない』
その言葉が本音だったら、もしかしたら、彼自身も周りに見せている姿が全てじゃないのかもしれない。
「佐野ー!帰んの?」
教室を出ようとする優月は、長澤に呼び止められた。
「大貧民やってかねー?」
「ゆづ、やろうよー」
「おいでよー」
優月と親しい女友達も手招く。
長い足のせいか、一番後ろの席にいた彼は優月が答える前に、スキップしながらほんの数秒で、彼女のいる教室の前方のドアに辿りつく。
「佐野ちゃんいないとつまんねーじゃん。一緒にやろう」
素直さなのか計算なのか全く判断できない、歯が浮くような台詞を簡単に言うのも彼の特長だ。