でも…蒼が誰かの彼氏になるなんて嫌だから、もう自分の気持ちから逃げちゃいけないんだね。

『アンタには、頼まない。そのかわり、容赦しないから…』

そうあたしの耳元で囁き、あたしの耳をかじった。

『…イタッ!』

かじられた左耳を押さえ、栞ちゃんを思いきりにらんだ。

『栞ちゃんって芸能事務所に入ってるんだってね…』

『…だから何?』

『…噂で聞いたの。イイ女優さんになれるね、きっと…』

あたしだって負けない。

顔もスタイルも何もかも、栞ちゃんに勝てなくても。

たったひとうだけ。

蒼を想う気持ちは、誰にも負けない。

『アンタわ何が言いたいわけ?』

『だって…さっきまでの栞ちゃんとはまるで別人だもん…。演技うまくて…びっくりしちゃった』

あたしの言葉を聞いて、栞ちゃんはプッと噴き出し、甲高い声で笑続けた。

『はぁ〜おかしい。アンタさぁ、栞のことなめてるみたいね?』

『…なめてないよ…あたし、ほめたのに』

『宣戦布告ってわけね?…見てなさい?栞、本気だすから…』

そう言って栞ちゃんは、しっかりとあたしをにらみつけた後、その場から走り去っていった。

どうしよう…宣戦布告だって…。

『本気出すって…』

ひとりつぶやき深くため息をつくと、後ろに人の気配を感じた。