そこでわたしはひとつ不思議に思ったことがあった。
綾野は初めて参加しているのに普通にすらすら歌えているのだ。
音程が難しくてみんな引っかかっていたところも普通に歌えている。
みんなより声出ているし、上手。
おかげで無駄な指示が省かれるが、不思議だった。
しかし、プラスの分マイナスが大きかった。
綾野の参加により、周りのみんなの声があからさまに小さくなっていた。
これはまずい。
そう思ってわたしは一旦指揮を止める。
「…みんな声、前より小さくなっているよ」
わたしの言葉に最初に反応したのは相田くんだった。
「そ、それはあ綾野くんが急に来たからに決まっているだろう!み、みんな怖いんだよ!」
そーだそーだと言うように周りが煽る。
「ちょっと…!」
「情けない」
わたしの隣から加宮さんの冷たい声が聞こえる。
「情けないです。たかがそんな理由で、今までの練習を潰すつもりですか?」
その言葉にクラスは静かになる。