放課後、いつものように練習を始める。
わたしは電子ピアノを取りに準備室へ向かって何組か先生に伝え、ピアノを受け取る。
これが重い。だれか連れてくればよかった。
「鈴崎?手伝おっか?」
わたしに声をかけてくれた人は綾野と同じサッカー部の多村駿平だった。
坊主頭が少し伸びていい感じに触り心地よさそうな頭をしている。
「お願いしてもいいかな」
そう言うと駿平は電子ピアノの端をもって、わたしももう片っぽの端を持つ。
「これを女子一人とか…大変だったな」
「そう?」
教室までの短い距離を歩いて、教室につくと綾野がいつものようにカバンを持って教室から出ていこうとしていた。
…いつものこと。
そう思っていたとき。
「綾野、いい加減にしろよ。みんなに迷惑だろ」
電子ピアノを教壇に置いてくれた駿平が綾野のことを睨んでいる。
駿平の言葉に反応して綾野は立ち止まった。
「なにがあったかは知らねぇが部活は辞めちまうし先生には反抗するし、情けなくねぇのかよ。もう3年になんのにいつまで周りに甘えてんだよ」
その言葉に綾野は無視するように教室から出ようとする。
待てよと駿平が腕を掴む。
「…放せよ」
「いや、だめだ。参加しろ」
教室の空気がピリピリする。
いつ喧嘩が始まるのかわからない。
止めなきゃいけないのに、ほかの人が止めてくれないかと思ってしまう。
そんななか、二人の中に割って入ったのは宮沢だった。
「…やめとけ。駿平、賢太はほっとけ」
そういって駿平の肩をポンと叩く。
舌打ちをして綾野の腕を話すと駿平は教室から出ていく綾野の背中につぶやいた。
「…本当どうしちまったんだよ」