なにかを蹴る音と男の子の大声が聞こえる。怒っているようだ。
先生と言い合いをしている。
「…なにがあったのでしょうね」
彼はすっかり変わってしまった。
明るくてやんちゃだった綾野はある日を境に人柄が変わってしまったのだ。
頑張って続けていたサッカーも、やめてしまった。
「…わかんない」
わたしはそう言うしかなかった。
だって本当にわからない。
わたしと別れたからが理由ではないと思う。
「宮沢くんは?」
眠そうに頬ずえついている宮沢の返事は決まっている。
「知らね」
綾野の都合の悪い話にはいつもこう。
「もうすぐ、文化祭なのにね…」
指揮者のわたしと伴奏者の加宮さんは放課後遅くまで練習して、みんなは朝と放課後に練習をしている。
ただ、綾野は一度も参加しない。
みんな綾野を恐るようになっている。
元々が運動神経いいから喧嘩も強いらしい。和田とも喧嘩したらしくて、結果は綾野の圧勝。
でも、やっぱり喧嘩はよくないよ綾野。
わたしは何度も彼の背中に訴えた。
泥だらけになって必死でボールを追いかける綾野のほうがずっとかっこいい。
サッカーしている綾野がいい。
口から出てきてしまいそうな言葉を抑えてわたしは綾野の背中を見つめることしかできなかった。