「あれは、小5のクリスマスだ。毎年クリスマスパーティーに俺と賢太を誘って、実樹と実樹の両親と楽しんでいたんだ」
クリスマス前から3人でツリーを飾ったり、料理をしたりとそれは毎年楽しかったそうだ。
その話をしているときの宮沢は笑っているように見えた。
しかし、突然悲しそうな顔をする。
「実樹の父親が、実樹に渡したものがうさぎのぬいぐるみだった。真っ白で、綺麗なうさぎ。賢太と俺はそのうさぎを嬉しそうに抱く実樹を見てて俺らまで嬉しくなったのを覚えてる」
想像するとそれはとても微笑ましいものだった。
「そのあとだ。俺はそのうさぎを実樹と引っ張りあいをして…腕を、取っちまったんだよ。実樹が泣きそうな顔をしていた。俺は思わずうさぎを持って一人で帰ったんだ」
宮沢が辛そうな顔をする。
「それからあいつに会うのが怖かったんだ。謝りたかった…でも謝れなかった」
「…そんなことがあったんだ」
すると宮沢はカバンを開けてなにかを取り出す。
ボロボロの紙袋。少し膨らみがある。
その中には薄汚れたうさぎのぬいぐるみが入っていた。
カバンの半分弱スペースをとる大きさ。
「これを…毎日?」
宮沢は頷く。
しかしそのうさぎには腕がある。
よく見ると真っ白な腕にピンク色の糸で縫ってある。
「いつか、渡せたらなって」
うさぎを見る宮沢の目は優しかった。
「渡そうよ、これ」
「は!?無理に決まってんだろ!」
珍しく大声を出す宮沢。
…よっぽど。
「大丈夫。わたしに任せて」
その日わたしは作戦を伝えて解散した。
宮沢の意外な過去。
まだ整理できていない。
でも二人のためにも頑張ろう。