「なれなれしいのよ! あんたは!」
自分で自分が悔しくて、力を込めて手を振り払おうとした。
でも浄化は、あたしの手を強く握って絶対に離そうとしない。
そのまま軽い足取りでどんどん前へ進んでいく。
そして嬉しそうな顔であちこちの景色を眺めていた。
「綺麗な桜だなあ。あれ、桜でいいんだよな? 梅じゃねえよな?」
「あんた、梅と桜の区別もつかないの? それでも日本人?」
自分の事は思い切り棚に上げてバカにしてやった。
それでも浄火は怒る様子もなく、のんびりしている。
「だってオレ、梅も桜も生まれて初めて見るから」
「はあ? どんな僻地の出身よ」
「だから、常世島だよ」
・・・・・・あぁ。
そういえば、あの時マロさんが説明してくれてたっけ。
うば捨て山みたいな島。
罪も無いのに島流しにされてしまった、可哀そうな人たちが身を寄せ合って生きる場所。
「・・・ねぇ、そこってどんな島?」
「寂れた島さ。つまらない所だ。オレの両親もとっくに常世島で死んだし」
「そ、そう・・・」
「あの島には活気も無いし、楽しみも無い。喜びも無い。なにも無い」
「・・・・・・・・・・・・」
「まあ・・・それもしかたないけどな」
浄火の声が、陰りを帯びる。
そしてそのまま沈黙してしまった。
島の出身ってことは、浄火は常世島で生まれ育ったんだろう。
浄火の言う『なにも無い』島から、たぶん一歩も出ることも叶わずに。
たまたま自分の親に、神の一族の能力がなかったって理由だけで。