「ああ、そういやあんた、天ぷらソバ食って腹壊したんだって?」


「そ、その通りですわ」


「お大事にな。オレに気づかいは無用だ。オレは里緒と一緒にいたいだけだから」



そう言って浄火は、懐から一通の書状を取り出して見せた。



「ほれ、信子ババ自筆の手紙だ」


「アマンダは、わたくしの看病で忙しいんですわ!」


「オレが一緒にいたいのは、アマンダさんじゃねえよ。里緒だ」


「分からない方ですわね! だから、アマンダのことを言ってるんですのよ!」


「あんたの話の方がよっぽど分かんねえよ」



どこまでも綺麗に平行線をたどるふたりの会話に、セバスチャンさんが終止符を打った。



「ようこそお越し下さいました。浄火様」


うやうやしく腰を折り、浄火に向かって丁寧に挨拶する。


「どうぞ、ごゆるりとご滞在下さいませ」



・・・えぇぇ!? 

ご、ご滞在させちゃうのお!?



「セバスチャン! なに言ってますの!?」


「おお、あんた門川の大広間で目立ってた色男だな。よろしく頼むぜ」


「客間へご案内いたします。どうぞ、屋敷の中へ」



満足そうな表情でうなづき、意気揚々と浄火は屋敷へ入っていく。


その後ろ姿を見送ってから、お岩さんはセバスチャンさんへ怒鳴り散らした。


「なぜあの男を追い返さないんですの!?」


「理由は、これでございます」



浄火が差し出したババの書状に、セバスチャンさんが目を通している。