「それに彼女が里を出たのは、ずっと昔、わたくしがまだ子どもの頃ですもの」
そうか、もう記憶が薄れているんだ。
門川の会議で大広間に座る位置は、それぞれ厳しく決められている。
お岩さんと因業ババの定位置はお互いすごく遠かったし。
あたしの結婚騒ぎの時も、ふたりが顔を合せた時間はわずかだった。
それで今まで気付く機会がなかったんだ。
「あのババァが・・・あの、みんなのお姉さん? そんな・・・」
お岩さんが呆然としながらポツリとつぶやく。
「みんなのお姉さんって?」
「里の子どもは、そう呼んでいましたの。赤ちゃんや子供が大好きで、親切で優しい彼女のことを」
「親切で、優しい・・・?」
「皆、懐いていましたわ。だから彼女が去った時は悲しくてずいぶん泣きましたわ」
そんなお岩さんの思い出話を聞いて、あたしは面食らうばかりだ。
昔はそんなに優しい、皆に好かれるような素敵な人だったの?
今とギャップありすぎでしょ? そりゃ確かに年月は人を変えるけど。
人ばかりじゃない。生き物全て、時間が経てば変わっていくもんだけど。
ひよこからニワトリへの変貌具合なんかもう、あれはほとんど裏切りに近いけど。
それにしたって・・・・・・。