「誰であるか?」


黄昏色の奥から年老いた女性の声が聞こえた。


音が空間に反響して、耳に籠る。


浄火がその音に答えた。


「長のばーちゃん、オレだ」

「浄火か・・・」


その先は行き止まりだった。


突き当りの壁に、ロウソクの明かりにボウッと照らされた巨大な壁画が見える。


これは・・・天女? 女神?


うわ、すご、壁一面の壁画だ。圧巻・・・!


飛鳥風の衣装を身にまとい、羽衣を靡かせた、数人のふくよかな顔つきの女性の絵。


かなり昔に描かれた絵らしく、もうだいぶ色が剥げ落ちてしまってる。


でもそれがかえって、悠久の年月と揺るぎない風格を醸し出していた。


黄昏の中に浮かび上がるその壁画の前に、壁画と同じような衣装を身に着けた長がポツンと座っていた。


「何用か?」


小柄な女性だった。


声からして、だいぶお年なんだと思う。


長く垂らした髪は完全に艶の抜けてしまった総白髪。


薄暗がりでもはっきり分かる、シワの影の濃い表情。


落ち着いた声色が、洞窟の闇と静寂にふさわしい。


あたしはこの場の雰囲気と、長の発する威厳なようなものに無意識に飲まれていた。