「……一体何があったんだよ、こんなところで会うなんてびっくりだ」

「私もびっくりだよ。武俊くんこそ死んだの?」

「いや、俺は半死」


何だこのシュールな会話は。

あっちもそう思ったのか、湯気越しにクスリと笑う。
懐かしいな、と思うような笑顔だった。


「そっか。戻れそう?」

「どうなんだろ。いい加減戻らねぇとなと思ってるけど、戻り方が分からなくてな」

「そうかぁ」


妃香里は再び珈琲を口に含むと、ヨミの方をちらりと見た。


「……こういうことだったんですね」

「一度きちんとお話しなさい。これもまた運命ですよ」


ヨミと妃香里の会話の意味が、俺には分からなかった。
ただじっと見つめていると、妃香里のほうがくすりと笑う。


「……さすがに本人に向かって言うのとかキツイんですけど」

「貴方のお話は私が聞きます。タケさんはここにいるだけですよ。従業員ですからね」

「妃香里も誰かに手紙を出すのか」


口を挟んだら、凄い早さで手刀が飛んできた。ぶつかる直前、俺の鼻先すれすれで止まる。


「ひいっ」

「黙っていてください。今日は貴方は置物です」

「置物って」


置物は動きませんけどー。

ヨミって時々ヒデェよな。
人のことこき使っている癖に、この物言いはねぇぜ。

そこから、宣言通りヨミは俺を置物扱いし始めた。
まるで荷物でも動かすように俺の背中を追いやり、自分だけが妃香里の視界に入るように座る位置を調整する。


「さあ。リラックスしたところでお話しください。以前聞いたことも含めて、最初からお願いします」

「……はぁい」


妃香里は首をめぐらしてバツが悪そうに俺を見たかと思うと、ヨミの方に向き直りゆっくりと話し始めた。

暖かそうなピンクのニットが、やたらに場違いに見えた。