「私はその後、夫となった人と無事に家庭を築き上げました。子供は六人。途中で死んだ子もいたけれど、四人は無事に大きくなって幸せな家庭を築いてくれました」
「……で、ばーさんは誰に何を伝えたいわ……」
再び脳天をチョップされる。
「タケさん。情緒ってもんが足りませんよ」
「叩くなって言ってんだろ」
クスクス、ばーさんは俺たちを見て笑う。
「……そんなふうに笑い合ったり、ふざけあったりするのが幸せだって。私は夫と暮らし始めてから思ったの。燃えるような恋とは違うけれど、穏やかな愛情を私達は一緒に育てていったわ。……あの時死ななくて良かったと、何度も何度も思った。そして申し訳ないとも思った。私は、あの人と一緒に行ってあげられなかったから」
「えーでも、ばーさん、憑き殺されるところだったんだろ。河童やろーのことなんてどうでもいいじゃん」
「いいえ。彼は最期に手を離してくれたの。私のために。……あの時だけは、彼はちゃんと私を見ていた」
すっとヨミが俺を押しのけるようにして前に出る。
「お手紙の内容は決まったようですね」
「ええ。彼に……板倉佐助さんに伝えたいの。天国で会えるかと思って探していたんだけど、会えなかったのよ。もう転生してしまったのかしら。彼に、伝えることは出来る?」
「ええ。こちらに書いていただけますか。貴女の想いを」
ヨミが手渡した紙に、ばーさんは達筆で書き付けていく。
【一緒に死ねなくてごめんなさい。
でもありがとう。
あの時、私を想ってくれてありがとう。
幸 】
それは、佐助の心を救うのだろうか。
俺には分からなかった。
ばーさんは茶を飲み干すと「必ずお渡しします」というヨミの言葉に満足したようにその場を後にした。