「俺の未練は、手紙じゃ晴らせない」

「ですが……」

「最後にもう一度【珈琲亭】でタケの入れた珈琲を飲みたかったんだ……でも俺は行けねぇんだろ? アンタ、代わりに行ってきてくれねぇかな」

「え?」

「出来るんだろ? それとも無理なのか?」

「……いえ、亡者本人の希望があるなら出来ます」


呆然と立ち上がりまるで了承を得ようとばかりに私を見るから、私は大きく頷いてみせた。


「では、鏡で見ていてください」


自然に笑顔を浮かべながら駆け足で郵便局を飛び出すヨミさん。
私は、マスターに珈琲を差し出して頭を下げた。


「……ありがとうございました」

「なんで礼?」

「ヨミさんが嬉しそうだからです」


マスターは昔してくれたような、何もかもを包み込むような笑顔を見せた。


「……妃香里ちゃんも嬉しそうだな」


そうかも知れない。
ずっと一緒にいて、無償の愛がうつったかも知れないよね。

ヨミさんが幸せそうなだけで、私も幸せなんて。
そんなお綺麗なセリフを、心から言うことが出来るなんて。


やがて鏡に、入店するヨミさんの姿が映った。

武俊くんはもうおじさんと言われる年齢で、ヨミさんはほぼ姿が変わっていないから、以前とはまるで違って見える。

だけど二人の間に流れる空気は、あの頃のままでいてほしいと思った。