「この顔……」


あの時と同じ。
好きな彼女に何も言えず、ただ見つめているだけの。
私が嫉妬心を煽られたあの顔。


「現世に戻ったタケさんは、すっかり自信を失ってしまったんです。彼女のほうが歩み寄ってきているのに。逃げ出してしまっている」


歯がゆいんです、とヨミさんは困ったように告げた。

彼の気持ちは、手に取るように分かる。
私だって、武俊くんのこんな情けない顔、見たくない。

そして、どうしてヨミさんが私に助けを求めてきたのかに思い至った。
武俊くんのことを何とかしてあげたいんだ。


「ヨミさん、私、もう一度お手紙書いてもいいですか?」

「……お願いできますか?」


眼鏡の奥からすがるような瞳で見つめられ、私の心臓がドキリと鳴る。
気恥ずかしくなって、俯いたまま便箋を受け取った。


【武俊くん。
なにやってるのよ、人のことフッておいて。
幸せにならなきゃ、呪い殺してやるから

妃香里】


「これでお願いします」


憮然とした顔で差し出せば、ヨミさんは、クスリと笑った。


「なかなか厳しいこと書きますね」

「そりゃ、せっかく送り出した意味無いですから」

「……ありがとう、妃香里さん」


お礼なんて、ヨミさんが言うことじゃないのに。
そんなに嬉しそうにされたら、胸がキュッと苦しくなる。

いそいそとハンコを取り出し、手紙の処理を始めた彼を、私はじっと見つめた。