「タケさんが最初に現れた時は驚きました。妃香里さんの件がありましたからね」

「ああ。あの時には俺のこと知ってんたんだな」


まるっきり初対面みたいな態度だったくせに。
すっかり騙されたぜ。
涼しい顔して何考えているか分からねぇな。


「ええ。でもお客様としてこられたら通常通り対応するでしょう。普通」

「まあな」

「すぐに妃香里さんの意中の男性であることは分かりましたし、飛び出していった彼女のことも気になっていましたから。あなたが未練を晴らして無事に死後の世界の住人になればいいと思ったんですよ。妃香里さんのことも救えて一石二鳥だと思いましたしね」

「お前、妃香里の味方かよ」

「この郵便局で救えなかった初めてのお客ですからね。気になるでしょう」


ヨミは前髪を耳の方へ流す動作をした。
そして咳払いをして、改まった調子で話しだす。


「僕は地蔵菩薩として、六道で苦しむ方々の救済に当たってきました。けれど、自分が動きまわるだけだと取りこぼしている方もいるような気がしましてね。それでこの郵便局を作ったんです。より強い想いや未練を抱えた方が、自ら救済を求めて来られるように」

「六道ってなんだ?」

「天道・人道・畜生道・餓鬼道・修羅道・地獄道。閻魔大王により示される死後の行き着く先ですよ。あなた方の言う天国も地獄もこの中に含まれますね」

「ほう」

「話がそれましたね。つまり、僕は救うつもりだった妃香里さんを救えなかったことがずっと気にかかっていた。それで、あなたが人道に戻れないことをいいことにあなたと彼女を引きあわせて彼女の方を救済したいと考えていたんですよ」