ベンチの真ん前までやって来た爽は、あたしじゃなくて、しんちゃんの前に仁王立ちした。



冷たく見下ろしながら、唇をへの字に曲げて不機嫌さが伝わって来る。



「お前、彼女いんだろ?だったら小夏に近付くんじゃねぇよ!」



低い声でそう吐き捨てると、爽はそのままあたしの手首をギュッと掴んで立ち上がらせた。



えっ……?


え?


ワケがわからない。



「いるけど、なつは大事な幼なじみだし。家族と同じくらい大切だから、桐谷の頼みは呑めない」



……しんちゃん。


胸に温かいモノが溢れ出す。


それはもう、好きっていう気持ちじゃないことは確か。



腕を掴まれながら見た爽の横顔は、悔しそうに唇を噛み締めているところだった。