『……よかったのですか』

『ん?』

『あの事です』


ギルが、控えめにそう尋ねる。

すると、美味しそうに紅茶を飲んでいた白雪姫が、その手を止めてくすりと笑った。


『私が王子を助けたこと?』

『……』


ギルからの返事はない。


『あの時───私が、ギルを止めたことについては、後悔していないわ』

『……しかし』

『勘違いしないで。私はあの人を助けたくてあなたを止めたわけじゃない。私はあなたを助けたくて止めたのよ』

『どういう、意味ですか』


白雪姫はぼうっと、何もない宙に視線を向けて、その時の出来事を思い出すかのように、目を細める。


『私は、あなたが王子を殺すことで、何かをなくしてしまうと思った。

 私は、王子と一緒になってほしくなかったの。理由が違うとはいえ、あなた自らが王子を殺してその手を血で染めてほしくはなかった。王子を殺してしまったらきっと、あなたはあなたではなくなると、そう思ったから止めたのよ』