───聞こえてくるのは、小鳥のさえずりだった。
優しげな歌声と、柔らかな風の音。
ゆっくりと照明が光を取戻し、淡い光が白雪姫の金色の髪を輝かせる。
彼女はひとり、花壇の手入れにいそしんでいるようだ。軽やかに鼻歌を歌いながら腕に下げたかごに摘んだ花を丁寧に入れていく。
『───白雪様』
ぴたり、と白雪姫の手が止まる。
後ろを振り返ると、焦ったような顔で白雪姫に近寄ってくる男の人が一人。簡素な服に身を包んでだその男は、麦わら帽子と白いカーディガンを両手に白雪姫のもとへ駆け寄ってくる。
そして、半ば強制的に白雪姫の頭に帽子をかぶせ、その華奢な肩にカーディガンを掛ける。
『まだ初夏とはいえ、暑いのですから被らないと』
『大丈夫よ、まったくあなたは本当に過保護ね』
『大事な姫様に万が一のことがあってはいけませんから』
『はいはい』
『しっかりしてください。俺の主として、ちゃんと威厳と品格を持って、』
『あーあー聞こえない』
『淑女が腕をたくし上げるものではありません、白雪様!……はあ、今日はこれから仕事が山積みなのですから、お部屋に戻りますよ』
白雪姫は、はあと大きなため息をついて、ゆっくりと背伸びをする。そして後ろで呆れ顔をする男を振り返り、ゆっくりとほほ笑んだ。
『───じゃあ、行きましょうかギル』