その質問に、王子が一瞬目を見開く。


おそらく、妾の子として育てられ、本当は殺されるはずだった剣士を救った王子は───まだ何も、知らなかったのだ。

自分が、本当は妾の子で、殺されるはずは自分であることなんて、知る由もなかった。


剣士を助けなければ、おそらく彼はこんな風に手を真っ赤に染め上げることも、なかったのだ。


『……してるよ。君を助けなければ、僕は綺麗なままで居られた。君さえいなければ、僕は僕自身をこんなにも疑い、憎悪することもなかった。


 君を助けなければ、よかった』


『……』


『だから、早く殺してくれ。僕がまた、この手で誰かを殺める前に』


それは、すがっているようにも聞こえた。

苦しめ続けられる運命に、苦しめ続ける運命に耐え切れなくなる前に───いっそ殺してほしいと、すがっているように、聞こえた。

剣士が息をのむ。

その顔は悲痛に歪んでいた。ゆっくりと、剣が振り上げられる。安心するように王子の瞼が下りていく。


そして、その首に鋭い刃物が振り下ろされる瞬間、舞台の照明がすべて落ちた。