何かを思い出すように王子は目を閉じる。
その思い出を指でなぞるように、彼はそっと語り始めた。
『僕は、僕がどんな存在か、知ったのは……ギル、君の母が亡くなったその日だった。僕は、彼女から聞かされたんだ。
───僕は、偽りだったってことを』
『……』
『僕はね、本当は君だった。僕が、ギルだった。僕の母親は、王である父の妾。君の本当の母親は、僕が今まで本当の母親だと思っていた王妃だよ』
ぐらりと、剣士の瞳が揺れる。
その事実を淡々と語る王子の言葉が、信じきれないのか、受け止めきれないのか、揺るがなかった剣が、カタカタと音を立てていた。
『僕の本当の母は───僕が生まれるとき、僕が殺されてしまうことを、分かっていた。崇高な王に妾がいただなんて知られたら、誰もが僕を殺せと豪語しただろうから。
だから、唯一救う方法を、思いついた。
……ちょうど同じ時期に生まれた、君と、入れ替えること』
『……そ、んな』
『嘘だと思うかもしれない。けれど、本当だよ。そして、そのことをきっかけにどんどん狂っていった。最大の過ちは、僕の本当の母が入れ替える際に協力した男が、その話で僕を利用としたこと。……まあ、もう殺してしまったけれど。
そいつがばらまいた話が、実しやかにささやかれるようになって、裏で僕が本物の王子かどうか調べようという話も持ち上がっていた。
僕は、怖かったんだ。今思えば、欲に溺れた哀れな罪人に違いない。……僕を疑う者はどんどん殺していって、自分の手を真っ赤に染めていった。
そして、僕はようやく自分を自分たり得るものにする方法を思いついた』