真っ白なドレスに身を包んだ白雪姫が、精気の失った光のない瞳でぼうっと上を見上げたまま舞台の真ん中に立ち尽くしていた。
『やあ。予想通り、ううん。それ以上にきれいだね、白雪姫』
後ろから声を掛けられる。
その声の主が誰かは、わかっているからなのか白雪姫は何も反応することはない。
そんな彼女をもろともせず、カツカツと靴音を鳴らして、彼女の前までやってくる。そこにはいつも通りの張り付けた笑みを浮かべる王子があった。
『君を見せびらかしたい気持ちもあるけれど、こればっかりはしょうがない。僕の強引さに少しばかり反感を持っているやつもいるからね。
早いうちに君を手の内に入れておきたいと思ってね』
『……』
『じゃあ、行こうか。君は何もしなくてもいいよ、ただそこに立っているだけで構わないから』
王子に手を引かれて、彼女は後ろを歩く。
前の彼女ならば暴れてでも、自分の腕を切り落としてでも王子の腕の中から逃げただろう。でも、彼女にはそれをする力は、もう残っていなかった。
今更自分が反発していったいなんの意味があるのか、と。
囚われの身の自分が、いったいどこに逃げる場所がるのか、と。
逃げれば王子は追ってくるだろう、そのたびに自分の大切な人が殺されるくらいなら、自らが犠牲になったほうがましなのだと言い聞かせながら、彼女は手をひかれるがまま歩く。