暗転とともに、裏方の子たちが一斉に舞台へと走り始める。
ここからは時間との勝負だ。
使った血のりの量はそれほど多くないといえ、それをきれいにしつつ舞台道具を運ぶのだから、そうゆっくりもしていられない。
私はゆっくりと息を吸い込んで、マイクに口を近づける。
予定通り終わらなければ、アドリブを入れて引き延ばす。
『王子によって、城に連れ戻された白雪姫は部屋に籠り、姿を見せる気配はありませんでした。聞こえるのは、すすり泣く声だけ。
しかし、白雪姫を追い込むように、彼女の婚約の話が着々と進みつつありました。誰もが王子と結婚し、国が安泰することを望みました。
彼女の味方は、誰もいません。
彼女は、ただただ意志をなくした人形のように、毎日を過ごすしかありませんでした。
そして、その日はやってきてしまったのです。王子は婚約の儀を少数で執り行うことを決めました。
内密に執り行い、すべてを終えた後に婚約を発表することで、反乱を起こすものがないよう万が一に備えるためでした』
ちらりと横目に見ると、舞台袖に立っていた裏方の子が親指を立ててグーサインをこっちに向けているのが見える。
私は同じようにグーサインにして、返事をした後、もう一度息を吸い込んだ。
『そして、彼女の運命に終止符が打たれる時がやってきました』
一斉に、ライトが舞台上を照らす。