時が、止まったみたいだった。


何が起こったのか分からなくて、頭が真っ白になる。温かな体温、そして鼻をかすめる嗅ぎなれた柔らかな香り。


恭ちゃんに、抱きしめられていると気づくのにそう時間は掛からなかった。ぐっと恭ちゃんの胸を押し返そうとすると、背中に回された手がそれに抗うようにぎゅっと力を強める。


「っっ、離して」

「ハル、聞いて」

「離してっ、離してよ何も聞きたくない!!何もっ、」

「ハルは、俺が嫌い……?」


振りかざした手が、止まる。

きっと、聞かれてしまった。全部、全部、聞かれてしまった。なら、もう。もうきっと私と恭ちゃんは今のままじゃ、いられない。変わらないままでは、いられない。


恭ちゃんが、遠くに行ってしまう。それが分かっていても、私は言うしかなかった。


だって、それ以上に私は恭ちゃんを傷つけたくなかったから。



「嫌い、嫌い大っ嫌い!」

「……」

「自分を犠牲にしようとするところが嫌い、私を守ろうとするところが嫌い、私のためなら何でもやろうとするところが嫌い、気持ちを踏みにじられてもいいって思うところが嫌い、バスケを辞めたところが嫌い、私を助けられなかったって悔やむところが嫌い、本当は思ってないのに私のせいで友達を恨もうとするところが嫌い、当たり前の自己犠牲が嫌い、嫌い、嫌い、嫌い、嫌い、嫌い、嫌い、嫌い、嫌い、嫌い、嫌い、嫌い、嫌い、嫌い、嫌い、嫌い、嫌い、嫌い、嫌い、嫌い、嫌い、大っ嫌いっっ!!」


「……」


「でもっ、」


縋り付く。瀬尾の胸ぐらを掴んで、私はいつの間にか叫んでいた。



「っっ、でも、そんな恭ちゃんを助けられない私が、もっと嫌い……っ」