「あ、」


瀬尾が、一歩私のほうに踏み出す。



息が止まりそうだった。

逃げなきゃ。



心が、強く私に語りかける。逃げろ、逃げろって。



瀬尾が、私のほうに手を伸ばした。思わず立ち上がる。そのまま、ドアが壊れるんじゃないかってほど乱暴に開けて、走る。


廊下で誰かにぶつかるのもお構いなしに、私は逃げるように走った。どこまで逃げればいいとか、どうやって逃げればいいとかもうそんなことを考える余裕すらない。


ただひたすらがむしゃらに走った。そして、校舎を出てすぐの角で、いきなり私の腕が引っ張られる。それが誰かは、もう分かっていた。私は必死に体をねじって握られた手を離そうとする。



「待てっ」


「離してっ、離して!!」


「結城、話を聞いてくれ」


「嫌だ嫌だ離して、離して離してっ」




「───ハル!!」