でも、言えなかった。


「言えない、言えるわけねえよ。

 守りたかった奴に守られて、大切なものも奪っておいて、それでも傷つけておいて、それで好きだ、なんて。ずっと好きだったなんて、言えなかった……っ」


瀬尾を、ずっと苦しめているものの正体。

それは、罪悪感。


だから、言えなかった。

好きだったとしても、たとえ結城が自分を好きだと知ったとしてもきっと、瀬尾は言えなかった。必ず後ろを振り返って、自分が過去にしたことの罪の重さに、罪悪感に、伝えられずにいた。



でも、と言葉を詰まらせて、瀬尾が髪をくしゃりと掴んで、今までせき止めていたものを吐き出すみたいに口を開いた。


「───でも、あの時。ハルが、ハルさえ守れればいいって思ったんだ。自分の気持ちがどんなに踏みにじられたって、ハルさえ守って自分に話が逸れれば、それでいいって」



〝あの時〟───それは、きっと、数日前に起きたあの件についてだった。ああ、やっぱりそうだった。そうだったんだ。瀬尾は、結城が堪えているのを見過ごせなかった。


だから、自分の気持ちを利用してまで、結城を守ろうとした。



「ずっと、分かってた。分かってた、だけど……っ」


「……」


「言われたんだ、ハルに。


 罪悪感は、消えたって」