俺は、朝比奈さんの抱えていた布の半分くらいを手で抱える。布だから重くないと思っていたけれど、案外かさばって重い。


「さ、佐藤くんいいよ。これから演劇の練習だよね?」


「台本読みの順番は終わったから大丈夫。これ、被服室まで?」


「あ、うんそうです。でっ、でも悪いし私が、」


「あー聞こえない聞こえない」


掴もうにも、両手がふさがっていて朝比奈さんから抜けるのは簡単だった。後ろの方から佐藤くんと何度も呼ばれたけど、聞こえないふりをしてずんずん歩きはじめる。

ようやくあきらめてくれたのか、朝比奈さんが小さく笑いながら俺の隣まで来ると、


「ごめんね、お願いします」


「……別に。俺が勝手にやったことだから」


ぺこりと小さく頭を下げる朝比奈さん。なんだか心がくすぐったくて、うまく言葉に出せない。もっとうまい言いようがあったらいいのに。そうしたら、もっと朝比奈さんと話せるのに。


……もっと、って思ってしまう。


初めは、近くにいるだけでいっぱいいっぱいだったのに。


もっと、話してみたい。もっと、朝比奈さんの違う表情を見てみたいって、思ってしまう。



「………………欲張り」