そのあと、私たちに気まずい雰囲気が流れた。
私は、下に散らばった印刷した台本の紙を拾い上げ始めると、佐藤くんも同じように紙を拾ってくれた。
そのまま、職員室を出て、会話なく廊下を歩きはじめる。
……だめだ。
このまま戻ったら、きっと何かあったって気づかれてしまう。
それだけは、何としてでも避けたかった。
私はくっと、息を飲みこんでひきつる頬を無理やりあげて、いつも通り元気に笑いながら佐藤くんに話しかける。
「それにしても私ってば、てっきり瀬尾が保健室に運んでくれたのかと思ってました」
「……」
「意識が朦朧としてたとはいえ、気付かないなんてほんと馬鹿だなぁ。雨の日は気をつけなきゃいけないって散々思ってたの、に、」
言葉が止まる。
ぽろっと言ってしまった一言に、私は思わず口を押えて顔を逸らした。ああ、くそ。何を言ってるんだ私は。
佐藤くんからなんで雨の日はだめの、と聞かれることが怖くて───私は、そっと横目で佐藤くんの様子を窺う。けれど、佐藤くんの視線はこちらには向いていなかった。まっすぐ、前を見たまま。
あれ、何か聞かれると思ったのに。
……でも良かった、と小さく肩をなでおろしたとき。