既に祝いのムード一色となった城下町の歓声の渦に、私と紅は孤立無縁の状態。

完全に反撃の余地は奪われた。

絶体絶命だ。

だというのに。

「乙女、異国にこういう言葉があってな」

紅は呑気に薀蓄(うんちく)を述べ始めた。

「三十六計逃げるが勝ち、とな」

そう言って彼は、ヒョイッと私を抱き上げる。

いわゆる『お姫様抱っこ』という奴だった。

パフォーマンスだと思ったのか、城下町の歓声が更に大きくなる。

「こ、こらっ、紅っ…!!」

こんな大衆の面前で…。

恥ずかしさに頭がくらくらする。

そんな私を見て楽しみながらも。

「戦略的撤退だ」

フワリと。

私を抱き上げているとは思えぬほどの身軽さで、紅は近くの建物の塀へと飛び上がり、それを足場に屋根へと飛び移った。

そのまま屋根伝いに王宮へ。

…仕方ない。

城下町の騒ぎの収拾は、なるようになるだろう。

そう思う事にした。