赤煉瓦の通りを、時折足を止め、店の軒先を覗きながら歩いていると。

「おとめー!!」

私を呼ぶ声がした。

この声は私にとっては馴染みのものだ。

この通りにある大衆食堂『梟亭』の主人の子供達、カイトとエレナの兄妹だ。

「おとめねえねー」

やって来るなり、私の膝辺りにしがみつくエレナ。

相変わらずの甘えん坊だ。

カイトはというと。

「あ!くれない!」

私の傍らに立つ紅を見つけ、身構えている。

カイトにとっては紅は憧れでもあり、ライバルでもあるらしい。

「梟亭の倅か。街の平和の方はどうだ?」

カイトはこの城下町の少年少女達のリーダーだ。

幼いとはいえその統率力は、紅も一目置いている。

「おまえにいわれなくてもへいわにきまってるだろ!」

生意気な口調で言うカイト。

その割には私の陰に隠れて逃げ腰だ。

お陰で私は正面にエレナ、背後にカイトと挟まれてしまっていた。