風はまだ冷たい。

夜ともなれば尚更だ。

頬を撫でる風は時に刃、時には針のようであり、吹き付ける度に痛みにも似た寒さを私に与える。

「乙女」

私は呼ばれるまで、どうやら眠っていたらしい。

「ん…あ、何だ、紅?」

ハッと顔を上げる。

女神国の砦門、見張り台。

私は夜更けにここを訪れ、どこまでも続く地平線を見据えていた。

…いつ眠りに落ちたのかは自分でもわからない。

次に目を覚ますと、壁にもたれかかり、ウトウトと舟を漕いでいた。

「器用な奴だ。こんな所で眠ると風邪をひく」

いつの間にか赤い外套をまとった男が私のそばに立ち、その外套で私を包み込むようにしていた。

見ようによっては、私の小柄な体が彼に抱きしめられているようにも見える。

「は、放せ。大丈夫だ」

少し強めに彼を突き放そうとする。

しかし。

「眠るのならば部屋に戻れ。見張りを続けるならばこのままだ」

相変わらず我が女神国の武術指南役殿は意地が悪い。

私を外套で包み込んだまま、紅の異名を持つ男は離れようとはしなかった。