素早く。

紅は皇帝との距離を置いた。

…私とてそうしただろう。

見た事もない剣技だ。

鞘の中に納めたままの剣を、抜き放つと同時に打ち込んでくるとは。

「これも異国の剣術でな…『イアイ』…そう呼ぶそうだ」

カタナで己の肩をトントンと叩きながら、皇帝は勝ち誇った表情を見せる。

…イアイ…恐ろしい技だ。

鞘の中から放たれる為に相手の剣が見えない上、その速さは紅の神速の槍捌きにも匹敵する。

だが。

「……」

紅はまたも構えた。

「ほぅ?」

皇帝の笑みが消える。

「二度も槍を捌かれて、まだ勝ち目がない事に気づかぬか…貴様、思った以上に阿呆か?」

紅を愚弄する皇帝に。

「二度程度捌いたくらいで、俺の槍術に勝ったと思わぬ事だな」

逆に笑ったのは紅の方だった。

…その笑みをきっかけに、両者から言葉が消える。

吹きすさぶ風の音のみが響く。

両者の間合いが詰まる。

ジリ、ジリと。

僅か数ミリ動く度に緊張が高まる。

そして次の瞬間!!