吊り橋に踏み入る紅。

そう。

一騎打ちはこの吊り橋の上で行われる。

相当に古い吊り橋だ。

橋を支える手摺り代わりの縄は黒ずみ、足場の板は踏みしめる度にギシギシと鳴いた。

谷底から吹き上げる冷たい風に終始揺らされる吊り橋。

この上で戦った所で橋が落ちたりはしないだろうが、足場も狭く不安定な事は間違いない。

戦闘に不向きな場所である事は言うまでもなかった。

にもかかわらず、紅は顔色一つ変えずに臆する事なく橋の中央へと歩み出る。

大した胆力であった。

対する帝国側からは。

「やはり貴様か」

紅が呟く。

吊り橋を渡ってきたのは皇帝だった。

「当然だろう」

愉悦の笑みすら浮かべて皇帝は言う。

「賭け事は三度の飯より好きでな…特にこのような命を張った賭けはたまらぬ。このような愉しき勝負、誰が兵卒などに譲るものか」

皇帝の白い外套が、吹きすさぶ谷風に翻る。

赤と白。

二人の外套の男は、吊り橋中央で対峙した。