吊り橋へと向かう紅。

その紅を。

「お、おい、待て!」

私は呼び止めた。

「…何だ?」

彼は何の感情も浮かべていない表情で振り向く。

「譲らぬぞ。久々の仕合で興奮気味なのだ。水を差すな」

「馬鹿!」

私は怒鳴る。

「勝手な事を勝手に決めて、何のつもりだ!もし負けたらどうするつもりだ!」

「ほぅ」

紅は私を馬鹿にしたような笑みを浮かべる。

「つまりお前は、俺が負けると思っている訳だ。これまで漆黒や獅子王といった手練(てだれ)をことごとく倒してきたこの俺が」

「…そうではない」

紅の強さはよく知っている。

伊達に旋風、魔風の二つ名で呼ばれている訳ではないのだ。

その槍捌き、その身のこなしは、手合わせをした経験もある私が一番よく知っている。

しかし。

戦いに常勝など有り得ない。

事実紅とて敗北寸前まで追い詰められた事など何度もあるし、深手を負わされた事もある。

だからこそ…。

「心配するのは当然だろう…」