皇帝が見下した目で赤い外套の男を見る。

「何だ貴様は。兵卒に話はないぞ」

「そう言わずに聞け、皇帝。乙女よりは話が合う筈だ」

紅は魔槍を携えたままニヤリと笑った。

「皇帝とはいえ、貴様も一端の武人と見受けた」

「おい下郎、俺に対して『貴様』とは何事だ。訂正しろ」

「元より貴様とて、言われて話し合いに応じるような気は端から持ってはいまい」

皇帝の言葉を無視して、紅は相変わらずの皮肉を口にする。

「聞こえなかったのか?訂正しろと…」

「そこでだ」

紅は皇帝の前でビュンと槍を振る。

「一つ賭けをしないか。一騎打ちだ」

「なに…?」

皇帝の目が細まる。

「俺と貴様の国の代表一人がこの場で一騎打ちをする。俺が勝てば東方同盟との会談に応じろ。話し合い如何によってはそのまま退け。そちらが勝てばそれが開戦の狼煙だ。どちらかが滅びるまで戦を続ければいい」

不敵な笑みを浮かべたまま、紅が皇帝を見据える。

その紅に。

「面白い」

皇帝はニヤリと笑った。

「なかなかに面白い男だな、貴様は。気に入った。名前を聞いてやろう」

「名は捨てた」

紅は歩き出す。

「今は紅と名乗っている」