「待って」


すり抜けた時に、腕を掴まれた


「俺、まだ何も言ってないよ」


振り返れなかった


目に写るもの全てが、
まるで水中にいるかのように
ゆらゆら滲んでいて


こんな顔、見せれなかった


「伊織に伝えたいこと、あるよ」


かさりと、音がする何かを
空くんはわたしの手に握らせた


「…手紙


俺の気持ちだから」


「…家で、読、むね」


声の震えも、心の痛みも


もう、限界だった


腕を掴まれて、どきりとすると
余計苦しくなった


「…今、読んで欲しいんだ。


ずっと、伊織に渡したくて…

伝えられないままだったから」


空くんの声は、


その声は、自然と
手紙を開かせるような、


強い力のある声だった




ハートの形におられた
少し、シワや折り目のついた手紙


なんだか可愛くて
心の中で、少し笑った


そして、わたしは
それを


ゆっくり、開いた