「来てくれて、ありがとう…」


「来るに、決まってるよ」


嬉しそうに笑う伊織


なんか、いつもより可愛い


…そう感じるのはきっと


「あの…」
「伊織、髪切ったんだね」


伊織の言葉を遮るようなタイミングで
俺の口からつい、早口に言葉が飛び出る


こんなタイミングで言わなくたっていいのに、俺


緊張してる


伊織を見て、緊張してるんだ


「そ、そうなんだ…!切ってみたの。
どう、かな?」


一瞬
遮った俺を、伊織は不思議そうに見つめ



「すごく似合ってる。
特に前髪とか」


「…それ、少しからかってる?」


眉毛が見えてしまうほど短い前髪を
伊織はあまり気に入ってないようだった


「からかってないって!」

「だって、その、


…失敗したんだもん!


正直に言って、いいんだよ…?」


失敗したことを相当悔やんでるみたい


「可愛い」


「へっ…?」


ほろりと、本音が溶け出す


伊織の顔が驚いた表情を見せた


今思えば、“可愛い”なんて言葉を
伊織に
ストレートに言ったのは初めてかもしれない


「何回でも言うけど、すごく可愛い。


俺は、ほら


伊織の笑顔…とか、
もっと可愛く見えるし、その


短いの、俺は好き、かな」




やっぱり、いつも通りは無理だよ
彼方





“可愛い”とかそういう言葉
口に出したら自分も恥ずかしいから


極力、心の中で抑えてたのに…


余裕なんかなくなって
もう、抑えてられなかった


「な、んで、
いつも言わない事、ばっか
言うの…」


伊織の声は震えているように聞こえた


ごめん、伊織


でもさ、俺、いつも思ってたんだ


言ってないだけで、
いっぱい、いっぱい思ってた


「ごめん、


でも、からかってなんかないから


本気、だから」


凍らせてきた

止めてきた想いが


溶けるのを、止めない


オレンジに、ピンクが
色濃く混ざり合う


伊織も、俺も