伊織、カッコよかったよ


優里と湊にそう言ってもらえて、
内心嬉しかったりした



噂話と視線たっぷりの1日をなんとか乗り越えて


やっと、放課後


もちろん、わたしは図書室に行く


いつもの本棚の前
いつもの本


昼に手紙は受け取ったから、まだ何も挟まってはいないけど


本を手にしたら、なんだかほっとしてしまって


ぽろり


涙が溢れた


「あ…れ…」


思いがけない涙を
人に見られたくなくて


本を胸に抱いて、もっと奥の、誰もこないような本棚のほうへ走った


辞書とか、図鑑とか
誰も見にこないような本の森のなか


本を抱きかかえて縮こまって泣いた


本を見た瞬間に、空くんが頭に思い浮かんで


自分の中にあった、緊張の糸がほろりと解けた


怖かった涙
安心の涙


何を言われたって、空くんが大好きすぎて、
切ない涙


声をこらえて縮こまるわたしの姿なんて見られたくないけど


空くんに、会いたかった


ぎゅって、してもらいたかった


あたたかい言葉が欲しかった


空くん、お願い、涙を止めて


どうしようもなく、あなたが好きです


伊織って、名前を呼ぶ声が聞きたいよ